普段、詩ばかり書いている私ですが、皆さんの興味深いご投稿に感銘を受け、エッセイに挑戦してみる事にしました。初めての試みなので、お見苦しい点があるかと思いますが、温かい目で見守って頂ければ幸いです。
今回は、「推し活によって社会復帰の第一歩を踏み出せた」というテーマでお話しします。

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転機が訪れたのは、専門学生時代、最後の冬休みであった。

私はそれまで、一人で買い物する事は疎か、外出する事すらままならなかった。通学以外に外出する事もなければ、寄り道する事もなかったので、自販機で一万円札が使えないのにさえ驚愕した程である。

いわゆる、「準引きこもり」だ。

いじめや孤立、機能不全家族にゴミ屋敷、不安障害、そして、就活――。様々な課題が積もり積もって、「消えてしまいたい」と考える事も少なくなかった。

そんなある日、冬休み企画と銘打って、ある国民的人気アニメがYouTubeで一挙配信されているのを見つけた。何気なく再生した私であったが、気付けば全五二話を視聴しきっていた。そのアニメに登場する、一般には見向きもされない様な脇役ではあるが、その彼に強い憧れを感じたからだ。

「こんな風に、人の顔色を窺う事なく、自由に人生を謳歌してみたい!」

それ以来、スマホ片手に公共交通機関を乗り継いで、遥々隣町の図書館へ遠出した事もあった。
むろん、推し活のためである。
読者の皆様にとっては、何て事ない日常風景かも知れない。しかし、私にとっては、まるで宇宙旅行でもしたかの様な気分であった。何せ、自宅の周囲を散歩する事すらおぼつかない状態なのだから。

なぜ隣町の図書館まで遠征したかというと、漫画単行本のうち、オリジナル版にしか掲載されていない、推しの活躍シーンを一目見るためである。

その作品の漫画家は「改訂の鬼」であったため、単行本化の際に、セリフの改変からイラストの加筆修正、果てはガラリと絵柄の変更までする事もあったという。
私の推しは、漫画家が描く複数の作品に、時に名前を変えて登場している。
ターゲットである漫画も例に漏れず、単行本化の際、推しが登場するシーンがまるまるカットされてしまったらしい。(当時の連載雑誌を手に入れなければ、)長らく幻となっていたのだ。
そんな中、「連載当時の作品を、ぜひ読みたい!」とのファンの声で復刻されたオリジナル版で、きっちり活躍シーンが掲載されているというから、これは読むしかない。
手始めに、地元の図書館にないか検索するも、蔵書なし。次に範囲を広げ、全国の図書館の蔵書を横断検索したところ、運良く電車で行ける隣町にあったという訳だ。

私は図書館に着くなり、すぐさま検索機で貸し出し状況を確認。足早に、推しの待つ本棚へと向かった。
「あ、あった……!」
幸い、朝イチに直行した甲斐もあり、持ち出されていなかったようだ。
感動に打ち震えながら、ページがふやけそうなくらい汗ばむ指でページをめくった事を覚えている。
血眼で探した結果、推しの登場シーンはたったの見開き二ページだったが、探しに出掛けて良かったと心から思えた。

この一件を皮切りとして推し活を続けてゆくうちに、外出のハードルが徐々に下がっていった。「海外旅行」から「国内旅行」、「日帰り旅行」を経て、最近遂に「ちょっとそこまで」に落ち着いてきたのだ。今となっては、一人で外食や美容院に行ける程に成長している。

就職こそできなかったが、推し活のお陰で自ら外に飛び出し、相談機関に助けを求める事ができた。その行動が功を奏し、福祉に繋がって現在に至る。

あの日、推しと出会っていなかったら、私は命を絶っていたかもしれない。

外に出る勇気をくれて、ありがとう。
君のお陰で、負け戦の人生を変えるべく、第一歩を踏み出せたのだ。そして、命を繋いでくれてありがとう。これからも、しぶとく戦ってゆくよ。

(終)