統合失調症の妄想癖 その9

街の公園や小川、駅周辺の花によるデザインを施し、商業ビルでもその内外で植物や花を駆使して 訪れる者を魅了した。

農家に直接新種の種や改良を重ねた良質な肥料を与え、安価に大量の花々を入手、瞬く間に世界の 各所に勢力を伸ばした。

のび助はしずを失ってから20年、フラワー業界で世界的な地位を手に入れていた。

ある日うたえもんに信長は言った。

「どうだ、借りは返せたか?」

うたえもんは家族同然になっていた信長を失う気がした。

「とっくにな」

そう言ったあと、フンっとソッポを向いた。

「江戸中期にわしを落としてくれまいか。太平の世を見ておきたいし、侍の最後の時代で、 わしは死にたい。歴史を変えぬようにする。わしはわしの居るべき場所で死にたい」

夜、いつもの3人の食卓で、明日信長が江戸時代に行く話をした。

「ちょ、ちょっと待ってよ!信長さんは俺にとってもう家族なんだ。居なくなったら困るよ。 それに・・・望みがあるなら極力叶える努力をするから、どうか一緒に居て欲しい」

のび助は目に涙が溢れている。

溢さないように必死で堪えていた。

「明日は大事な発表があって、俺は見送りにもいけないし、あんまり急過ぎるよ。 ちょっと待っておくれよ」

とうとう涙が溢れてしまった。

「いやもう決めたのじゃ。何を言われても変わらぬ」

「いや待って、ちょっと・・・」

のび助の言葉を遮り、信長は自分の小屋へ帰ってしまった。

のび助は声を出さずに、ただただ涙を落としていた。

うたえもんも黙っていた。

「・・・江戸時代なんか知り合いも居ないし、第一どうやって食べていくんだよ。 一人ぼっちでどうすんだよ。あんまりだよ」

 

統合失調症の妄想癖 その10

 

のび助はいつまでも泣いていた。

その日のび助は中々寝付けず、時折思い出したかのように涙を流して夜を過ごした。

朝はいつものように信長と鍛錬をした。

目を腫らしたまま木刀を無言で降った。

終わりに信長に深く礼をして、のび助は身支度をしに家に入ろうとすると

「元気でな」

と後ろから声がした途端に、のび助の表情が崩れ、またボロボロと泣いた。

また泣いていると思われたくなかったし、さよならも言いたくなかったので、のび助は振り向かずに 部屋へと戻った。

のび助が出掛けてうたえもんが信長の小屋へ出向くと、信長は正座をしており 横には小さな荷物があった。

「やっぱり行くのか?」

その問いに信長は

「ああ」

と荷物を持って立ち上がった。

タイム⚫️シンで江戸中期に降り立つと、信長は

「世話になった。達者でな」

と足早に東へと歩を進めた。

小さくなっていく背中にうたえもんは大声で

「ばかやろーー!お前なんか大っ嫌いだ!」

と震えながら泣いた。

肩を落としたうたえもんは小さくなっていく信長が、見えなくなるまでしっかりと見送った。

その頃のび助は会場に入っていた。

のび助が紹介され舞台に立つと、多くのフラッシュが焚かれた。

のび助47歳初夏。

今日大きな発表がある。

腫らした目も気にせず、のび助は深くお辞儀をして、マイクを通し話し始めた。

「我々は大きなプロジェクトに今後挑戦します。本日は皆様にこのプロジェクトの発表と 我々が目指す所の説明をします。同時にこの時よりプロジェクトは開始されます」

フラワー業界だけでなく、観光地を抱える世界各国の関係者も、この発表に注目していた。