信長はのび助の隣に座った。

「何の商売をしていたのだ?」

のび助はぼんやりしたまま

「花屋です。10の店をやってました・・・ん・・・?貴方だれ?」

のび助は直ぐ隣でこちらを見ている信長に、やっと気付いた。

「織田上総介平信長と申す」

「織田・・・信長・・・?」

うたえもんが温かいお茶を2人の前に置きながら

「僕が安土桃山時代から連れて来たんだ。どうぞ飲んで」

と言って、自らも席に着いた。

「すごい・・・」

のび助は信長をしげしげと見て、そして導かれるように話し始めた。

しずは小学生の頃から可愛く優しく優等生で、初恋だったと。 同じ高校に入りたくて、中学では出来ない勉強を頑張り、 何とか同じ高校に入れて、2人は花壇部で毎日のように花の話をした。 大学から交際が始まり、のび助は農学を専攻し、しずはフラワーアートを学んだ。

「いつか街を花でデザインして、通る人を幸せにしたい」

口癖のように話していたしずの夢は、いつしかのび助の夢ともなり、 卒業後結婚して小さな花屋を出した。 そこまでのび助が話した所で、うたえもんはハッと思い出して

「いけないいけない、そろそろニラを・・・」

と言いながら台所へ行った。

「しずは俺の天使だった。赤ちゃんまで授かって華と名付けた。幸せを与えられてた」

信長はそんな話を、歌を聞くように感じながら

「そうか」

とだけ言った。

のび助は久しぶりに沢山話せて、少しは穏やかさを取り戻せた気がした。

「ジャジャーン!うたえもん特製のおじやだぞ!ニラと卵が安かったから、 たんまり入れたしまだおかわりも出来る!さあ食え!」

食卓に3人分のおじやが、湯気を上げた。

レンゲを口に近付けると、胡麻油が微かに香る。

「旨いな!」

信長がビックリすると、うたえもんは自慢げに

「そうだろう?」

と笑った。

温かいおじやを食べ進むと、のび助の体温も上昇していく様で、胸の中まで温まる気がした。

「おかわり!」

信長が空っぽになった碗をうたえもんに差し出すと、うたえもんは

「はいはい」

と、いそいそと台所へ向かった。

のび助に向かって

「いや旨いな?驚いた」

と笑う信長を見て、おじやを頬張りつつ2回うなづいて返事をした。

ー何だろう・・・楽しい・・・ー

のび助も珍しくおかわりをした。

風呂を済ませ信長にのび助の洋服を着せると、案外似合っていたが違和感があったので、 帽子を被せたらしっくりときた。

「散髪までは帽子だな」

翌早朝、のび助が目覚めて窓の外を見ると、庭で信長が剣を振っている。

慌てて仕舞い込んでいた木刀を取り出して、信長の元に急ぎ、隣で真似をした。

うたえもんはその様子を見て

「じゃあ僕は美味しい朝ごはんでも作るか」

と右腕をブンブン回した。

その日は3人で、かろうじて残していた1店舗である本店の花屋で店を開け、 手分けして仕事をした。 元気さえ取り戻せば、本来花を愛し、知識も経験もあるのび助である。

日に日に巻き返し、借金もみるみる減らし、更には再び店舗も増やしていった。 そんなある日、ポストに同窓会の案内が届いた。

「うわ、小学校のだ。行きたいな」

と言うのび助に、うたえもんは行くことを勧めた。