統合失調症の妄想癖 その1

1582年6月21日京都本能寺に向け、大軍を擁した明智光秀は白馬に跨り、

進行の音に紛れて一人呟いていた。

「おのれ信長・・・この期は決して逃さぬぞ・・・朝廷を愚弄した殺戮者・・・我こそがおのれの野望を砕かん・・・」

やがて暗闇に紛れて、本能寺は徐々に包囲されていく。

眠っていた信長だったが、ただならぬ殺気に目を見開いた。

窓の障子を少し開けると、月明かりに蠢く大量の兵を知り、更に光秀の旗を確認した。

信長の兵は150程であり、家臣に首を取られる情景が脳裏を過ぎった。

武士が生き恥を晒すわけにはいかない。

気配を読み取り信長の元に駆け寄った少数の兵に、ここに多くの火を放つよう命じ、部屋から退室させた。

怖くはなかった。

不思議と怒りもなかった。

部屋の真ん中に座り、ただ夢半ばであったとだけ思った。

その時である

たららたったら〜ん🎵

突然うたえもんが現れ

「君を助けたい」

と言ってタイ⚫️マシンを出し、信長に入るよう促した。

覚悟をしていた信長だったが、咄嗟に判断し飛び込んだ。

ー何の命運ぞー

2024年、信長は生きてそこに居た。

空と雲に変わりはないが、明らかに違う景色に目を見張った。

うたえもんがタケコ⚫️ターを2本取り出し言った。

「これからのび助の居る横浜へ帰るけど、一緒に来るかい?」

信長は落ち着き払い即座に判断、タケコ⚫️ターに手を伸ばしつつ微笑んだ。

「お主に付いて行くのが、恐らくは吉であろう」

安穏とした横浜へ飛びつつ信長は問うた。

「何故わしを助けた?」

「助けて欲しいから助けた」

 

 

統合失調症の妄想癖 その2

うたえもんが移動にタケコ⚫️ターを選んだのには、訳があった。

道中街並みや交通の状態、人々の様子を見せつつ、ざっくりとした日本史を話した。

本能寺の変後に秀吉が光秀を討ち天下を取り、その後は家康が徳川太平の世を築いた事、

しかしまた戦乱が起こり、ついには世界中を巻き込んだ戦争を繰り返し、 世が発展しながら現在日本が平和に見える事。

信長は穏やかに そうか そうか と相槌を打ちながら耳を傾け、無表情のまま下界に目をやっていた。

横浜の邸宅に入り、ひとつの部屋で後ろ姿の青年を見付けた。

うたえもんはのび助を見ながら信長に話す。 のび助の両親がのび助の学生時代に亡くなった事、去年最愛の妻であるしずと幼い子を事故で 亡くし、成功していた商売もそれを機にして業績は悪化、近々この家も借金のカタに取られ のび助は全てを失ったと。

ここ1年食も細り痩せこけ、無気力になり殆ど会話すらしないと。

「助けてくれないか?ぼくの大切な友達なんだ」

うたえもんは振り返り、初めてしっかりと信長の目を見た。

「のび助は全てを失ってはいない」

そう言う信長に、うたえもんは強く否定したが

「お主のような、頼もしい友が居るではないか」

と笑う信長を見て、うたえもんはハッとした。

丸っ切り知人さえおらず、知らない時代に来て、何もない状況なのは信長ではないか?

助けてから飲まず食わずで、水すら催促しない信長に気付き、うたえもんは言葉を失った。

「帰りたいか?」

やっと言ったうたえもんに

「いや、それより何故わしに頼む?」

と信長が問うので

「のび助が最も尊敬して、憧れている人物だから」

と答えた。

「わしは医者じゃない。治せるかは知らんが借りがある。出来る事はしよう」

うたえもんは俯いて目を伏せ、頭を下げた。